京都大学 大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループ(以下 京都大学)と、株式会社日新システムズ(以下 日新システムズ)は、国際無線通信規格 Wi-SUN FAN(Field Area Network)を用いた無線機の大規模高密度環境における通信試験として、京都大学構内に400台の無線機を設置し、全無線機の自律的なマルチホップネットワーク構築の確認および通信試験を行うことに成功しました。
この結果により、市街地や住宅地、集合住宅などでもWi-SUN FANの自律的マルチホップネットワーク構築機能が有効に働くことが実証でき、今後実用化が進む次世代スマートメーターやスマートシティでの実用化に目途が立ちました。
スマートシティでのセンサーネットワークとして利用されるケースを想定し、Wi-SUN FAN無線機400台を京都大学構内の任意の位置に高密度に設置後、自律的にマルチホップネットワークが構築され、2日間を超える実証試験期間中各無線機からの情報がデータ収集用基幹無線機(ボーダールーター)に通信成功率97.1%以上で伝送することができました。
現在検討が進められている次世代スマートメーターやスマートシティで利用されるIoT無線ネットワークでは、多数の障害物が存在し、かつ機器設置後に周辺環境が変化する環境でも安定動作し、大規模高密度環境においても高い接続率での通信が可能となる無線通信方式が求められています。
京都大学と日新システムズは、このような無線通信方式の研究、開発を行うため2019年10月から総務省に採択された電波COE研究開発プログラム※1の一環として大規模高密度ネットワーク構築の研究を開始し、 2021年11月にはマルチホップ接続を駆使し多数の無線機からの情報を一つの基幹無線機に集約し収集する試験機を用いて500台の機器の接続に成功しました。さらに、2023年2月には1,000台まで無線機を増やしてスマートメーターの実運用を想定した通信量のデータを各無線機から送信し、1,000台環境においても通信成功率99.9%以上の高品質な通信を実現させることに成功しました。しかし、これまでの試験では全ての無線機を研究室の内部に設置した状態で試験を実施しており、実際にWi-SUN FANネットワークが利用されるケースを想定したフィールド実証が実施できていませんでした。(図1)
図1 これまでの成果と今回の実証の位置付け
京都大学構内の68,000 ㎡(170m×400m)の範囲に400台(屋外292台、屋内108台)の無線機を設置し、全無線機の自律的なマルチホップネットワーク構築の確認と通信試験に成功しました。設置場所については特に事前の設計等は行わず、無線機間が十分な電力で送受信できるよう高密度に設置をしました(図2,図3参照)。また、試験期間は2日間連続運用を行いました。
各無線機は複数の建物の影や奥側になる場所にも配置していましたが、Wi-SUN FANの自律的マルチホップネットワーク構築機能により、障害となる建物を迂回するようなネットワークが自動的に構築され、範囲内に設置された全ての無線機がネットワークに収容されることを確認しました。また、この構築されるネットワークは設置環境に合わせ、通信成功率を向上させるよう各無線機が考えネットワーク構成を変化させていることも確認されました。この機能により、都市部でセンサーネットワークを構築した際に、新しい建物の建築や街路区画の変更などの無線経路に大きな影響があるような変化が起きても、その変化に応じた無線マルチホップネットワークを自動的に構築することが可能となります。
また、全ての無線機から30分、15分、5分間隔でのデータ送信を行わせ、既に実施済みの屋内環境での1,000台大規模実証とほぼ同様の通信成功率97.1%以上の結果を得ることに成功しました。
図2 京都大学構内に設置した無線機の接続状況
図3 無線機の設置例
今回の成果により、市街地や住宅地、集合住宅などでも数100台のWi-SUN FANの自律的マルチホップネットワーク構築機能が有効に働くことが実証でき、今後実用化が進む次世代スマートメーターやスマートシティで利用されるIoT無線ネットワークの実用化に目途が立ちました。
今後は、今回のフィールド実証で得たWi-SUN FANの有用性の周知、普及活動を行い、さらにWi-SUN FAN防災や高齢者見守り、地域インフラネットワーク構築などのさまざまな分野への導入・商用化を進めていきます。
※1 本研究開発は、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)電波COE研究開発プログラムの公募で採択された「電波利活用強靭化に向けた周波数創造技術に関する研究開発及び人材育成プログラム(JP196000002)」における共同型研究開発「Society 5.0の実現に向けた大規模高密度マルチホップ国際標準無線通信システム(Wi-SUN FAN)の研究開発」の一環として実施したものです。
次世代スマートメーター向け国際通信規格 Wi-SUN FANの大規模な高密度接続試験を行う試験機を開発
(2021年1月28日 報道発表)
https://www.co-nss.co.jp/press/20210128.php
次世代スマートメーター/IoT向け国際標準規格 Wi-SUN FAN無線機500台の高密度接続試験に成功
(2021年11月15日 報道発表)
https://www.co-nss.co.jp/press/20211115.php
次世代スマートメーター/IoT向け国際標準規格 Wi-SUN FANを用いた無線機1,000台の自律通信試験に成功
(2023年2月16日 報道発表)
https://www.co-nss.co.jp/press/20230216.php
Wi-SUN FAN (Field Area Network)
Wi-SUNアライアンスが制定するスマートメータリング、配電自動化を実現するスマートグリッドおよび、インフラ管理、高度道路交通システム、スマート照明に代表されるスマートシティを無線で実現するためのセンサー、メーターに搭載するIPv6でマルチホップ可能な通信仕様です。2016年5月16日にバージョン1がWi-SUN FANワーキンググループで制定され、現在は高速通信、低消費電力化などに対応したバージョン1.1の規格化が進められています。物理層にIEEE 802.15.4g、データリンク層に IEEE 802.15.4/4e、アダプテーション層にIETF 6LoWPANそしてネットワーク層部にIPv6、ICMPv6、トランスポート層にUDP、そして認証方式としてIEEE 802.1xを採用しています。また製造ベンダー間の相互接続性を担保するための試験仕様なども提供されています。京都大学と日新システムズでは、ローム株式会社と共同でこのWi-SUN FAN 搭載のWi-SUNアライアンス認証済み無線機の開発を2019年1月世界初で行いました。(IEEE 2857により標準化済み)
京都大学 大学院情報学研究科 原田博司研究室は、京都大学 大学院情報学研究科通信情報システム専攻に所属し、ディジタル通信分野に関する研究開発を行っています。特に原田博司教授は、2012年Wi-SUNアライアンス設立時の共同創業者(Founder member)であり、Wi-SUNアライアンス理事会議長(Chair of the Board)、副議長(Vice Chair of the Board)として長年活動し、またWi-SUNアライアンスHAN(Home Area Network) WG議長として、電力会社向け宅内スマートメーターシステム用Wi-SUNシステムの技術仕様策定、普及活動を行ってきました。原田博司研究室では、Wi-SUNシステム全般の研究開発を行っており、主に通信方式、電波伝搬・伝送、システム最適化、応用システム等の研究開発を行っています。
日新電機株式会社(東証プライム上場)の全額出資子会社である日新システムズは、これまで組み込みシステム開発で培った機器制御技術とネットワーク技術を土台に、エネルギーをはじめとするさまざまな分野において、価値あるスマート社会を実現していくことで新しい未来をみなさまと共に創り続ける企業です。
Webサイト https://www.co-nss.co.jp/
Wi-SUN FANソリューションページ https://www.co-nss.co.jp/media/press/wsf/
※本資料に掲載する会社名、製品名は各社の登録商標または商標です。
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